10月26、27日に有明海再生対策について政府交渉を行いました
有明海再生NET事務局長の北園敏光です。
10月26、27日の2日間、いのちとくらし・平和を守る熊本ネットワークとしての政府交渉団の一員として参加してきました。日本共産党の市議会議員は、荒尾市議の私北園敏光の他、熊本市、八代市、合志市、人吉市、水俣市の市議が参加しました。今年の交渉内容は菊陽町に進出するTSMCに関する問題をはじめ、私は有明海再生対策について、他に球磨川治水、すべての水俣病患者救済対策、物価高騰対策、教育の充実、中小企業支援、建軍自衛隊強化及びオスプレイ対応等々、18項目に及び、終日衆議院議員会館にて交渉を行いました。有明海再生対策につきましては、以下の要請書のように紛争解決のための話し合いの場の実現、有明海現地の研究に力を注がれている研究者との「協働」による再生の道筋の探究などを強く要請しましたが、農水省担当課長補佐をはじめとした担当者の姿勢はなかなか強調性が見られず、近年の有明海一円における赤潮発生の広域・長期化に対しても、一過性の減少と応え、諫早湾潮受け堤防の開門調査に背を向ける姿勢に終始しました。引き続き、事態の深刻さに真摯に向かい合うよう、強く迫っていくことが欠かせないと痛感しました。
以下、要請書をご紹介します。
有明海再生を求める要請書
【要請要旨】
かつて「豊穣の海」、「宝の海」と言われた有明海は今、タイラギは全く採れなくなり、クツゾコも車エビもアサリもほとんど漁獲量が激減し、瀕死の状態にあります。昨年は有明海全域に赤潮が長期に滞留し、2000年以降ノリ養殖の漁獲量は最悪の状況に落ち込み、特に2期連続の不良となった佐賀県西方沖では海苔養殖業を廃業する漁師が相次ぎ、極めて深刻な事態にあります。
かつては、さほど口にもされなかったクラゲやシバエビなどを獲らざるを得なくなり、その分の漁獲量増加をあたかも「有明海全体で漁獲量が増加傾向にある」などとした杜撰な判断で、有明海に望みをつなぐ開門確定判決に基づく強制執行を、権利濫用とする不当な最高裁決定で、今後の有明海再生の道筋が見えなくなるような状況の中で、差戻審決定を終え、有明海再生へ向けて農水大臣が「話し合いによる」有明海再生を述べるような状況を迎えています。
有明海の真の再生へ向けて、国として漁民・住民に寄り添う責任ある対応を強く求めます。
1、開門確定判決に基づく強制執行を権利濫用とし、憲政史上初めて確定判決に従わない国を免罪し、司法本来の役割を放棄した最高裁決定
2022年(令和4年)3月25日言い渡しの福岡高裁請求異議差戻審判決は、差戻審口頭弁論終結時の2021年(令和3年)12月1日時点において、2010年(平成22年)12月の福岡高裁開門確定判決の口頭弁論終結時から事情が変動しており、同確定判決に基づく開門請求を認めるにたりる程度の違法性を求めることはできず、同確定判決に基づく強制執行は権利濫用又は信義則違反になり、許されないなどと述べて国の請求異議を認容しました。
しかしながら、確定判決に基づく強制執行が軽々に権利濫用と判断され得ることになると民事訴訟制度の根幹が揺らいでしまいます。そのため、最高裁は昭和62年判例において「著しく真偽誠実の原則に反し、正当な権利行使の名に値しないほどの不当なものと認められる場合であることを要する」と、厳格な判断基準を示していました。ところが、2022年(令和4年)3月25日言い渡しの福岡高裁請求異議差戻審判決は、このような最高裁判例の厳格な基準には一言も触れず、そうした厳格な基準に基づく判断を放棄する不当なものでした。
そして、2023年(令和5年)3月1日、最高裁は漁民原告の上告棄却及び不受理の決定を行いました。
まさに杜撰な判断で確定判決に基づく強制執行を権利濫用とすることは許されないことは明らかです。今回の最高裁決定は、憲政史上初めて確定判決に従わない国を免罪し、司法本来の役割を放棄したものと言わざるをえません。
2、最高裁決定が示した「和解協議に関する考え方」こそ
有明海再生へ向けた唯一の解決方法
差戻審の過程において、福岡高裁が2021年(令和3年)4月28日に「和解協議に関する考え方」を発表し、紛争全体の、統一的・総合的・抜本的解決のため、「国民的資産である有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有するすべての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得る」という和解協議の歴史的意義を踏まえた広範な関係者の話し合いによる解決が、紛争が深刻化、長期化、複雑化した今日においては、唯一の解決方法であるといえます。
以下、要請します。
【要請項目(太字部分)】
- 本年3月2日、「有明海の再生を願う皆様へ」と題する農水大臣談話が発
表されました。同談話においては、話し合いにより有明海再生を図っていくことが国の考えであることが述べられました。
いまこそ、紛争解決のための話し合いを実現すること。
福岡高裁が差戻審における「和解協議に関する考え方」で述べたように、「国民的資産である有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得る」ことをめざし、いまこそ、紛争解決のための話し合いの実現を広く呼びかけるべきです。訴訟当事者をはじめ直接的な利害関係を有する人々のみならず、有明海の再生を願う広範な人々が参加できるようにすべきです。
とりわけ、地元における公開の話し合いの場を設定することが重要です。
「諫早湾干拓問題も話し合いの場を求める会」の訪問対話の中で、すでに4年前に、森山地区では154軒中112軒が話し合いの場を求める賛同署名に応じられました。
福岡高裁が差戻審の中で、裁判所が前提条件なしの和解協議を投げかけましたが、国はこれまで「開門の余地を残した協議の席には付けない」と拒否し、「双方の結論が全く正反対の方向を向いているのであれば協議は進まない」として、「非開門が前提」とした姿勢を崩してきませんでしたが、この姿勢を改め、「開門調査も含めて」「話し合い」のテーブルに着くべきです。
(2)有明海の未来を見据えた「真の話し合い」のために、開門の効果も含めた客観的な検討行った上で「合意」した有明海の方策を、研究者とも「協働」して実施すること。とりわけ、これまで有明海現地の研究に力を注いできた研究者との最新の科学的知見に基づいた「話し合いの場」の設定及び定期開催し、有明海再生のための調査・研究について協議をすすめること。
1990年代後半に諫早湾干拓事業の進展に伴って潮受堤防が建設され、1997年4月に締め切られたことを機に、上げ潮時に諫早湾の湾奥部へ移流する潮の流れが大きく制限されるようになりました。農林水産省による調査でも、最大潮流速が潮受堤防締め切り前の約1/4にも減少したことが観測されています。上げ潮時に諫早湾へ移流できなくなった海水は、有明海奥部西側を最奥部へ向けて移流する潮の流れを加速することとなり、その結果、有明海奥部に元来の地形的な理由で生じていた反時計回りの潮の流れを大きく衰退させることとなり、筑後川などから流入する大量の栄養塩は諫早湾内を含む有明海奥部海域に滞留しやすくなり、この海域で赤潮の発生件数が2000年以降、諫早湾で潮受堤防が建設される以前の1990年代前半と比較すると、約2倍に達する状態が20年以上も続いています。(「有明海における徴収に回復と赤潮・貧酸素頻発の抑制」2021年:堤裕昭・熊本県立大学学長より一部抜粋)
(3)近年はノリ養殖においても甚大な被害が続いており、有明海漁業を持続するためには、有明海特措法に基づく被害漁民の緊急救済が強く求められるとともに、こうした被害を生み出さないため、有明海再生に向けた開門と開門調査を実施すること。
以上
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