福岡高裁による有明訴訟の不当判決の上告について弁護団が声明を発表
-声明-
福岡高裁3.25請求異議訴訟差戻審不当判決の上告にあたって
2022年4月8日
よみがえれ!有明訴訟
原告団・弁護団
福岡高裁は、本年3月25日、2010年12月に確定した福岡高裁開門確定判決の執行力の排除を求めて国が提訴した請求異議訴訟の差戻審において、請求を棄却した佐賀地裁判決を取り消して国の請求を認容する不当判決を言い渡しました。
本日、わたしたちは、この不当判決に対して、関係者全員による上告及び上告受理申立を行いました。
この不当判決は、差戻審口頭弁論終結時の2021年12月1日時点においては、2010年12月の福岡高裁開門確定判決の口頭弁論終結時から事情が変動しており、同確定判決に基づく開門請求を認めるにたりる程度の違法性を認めることはできず、同確定判決に基づく強制執行は権利濫用又は信義則違反になり、許されないとするものです。
しかしながら、確定判決に基づく強制執行が軽々に権利濫用と判断されることになると民事訴訟制度の根幹が揺らいでしまいます。そのため、最高裁は昭和62年判例において「著しく信義誠実の原則に反し,正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する」と、厳格な判断基準を示しました。今回の判決は、このような最高裁判例の厳格な基準には一言も触れず、そうした厳格な基準に基づく判断を放棄しています。
認定された事情変更の事実は、いずれもこうした厳格な基準に合致するものではありません。中心的争点となった漁獲量に関して言えば、判決の認定は、漁獲量が全体的に増加傾向にあり,確定判決の口頭弁論終結時である2010年頃の数値からの改善がみられるなどというものですが、他方で、判決みずから、被控訴人である漁業者側の言い分を踏まえると、単純な評価は困難といわざるを得ないと述べるなど、自らの判断への自信のなさを露呈しています。最高裁判例の「著しく信義誠実の原則に反し,正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する」という厳格な判断基準からすると、こうした杜撰な判断で確定判決に基づく強制執行を権利濫用とすることは許されません。
差戻審の過程において、福岡高裁は、昨年4月28日に「和解協議に関する考え方」を発表し、紛争全体の、統一的・総合的・抜本的解決のための和解協議を呼びかけました。わたしたちは、「国民的資産である有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得る」という和解協議の歴史的意義を踏まえ呼びかけを歓迎しました。しかしながら、この和解協議は国が拒否したために実現しませんでした。
福岡高裁が「和解協議に関する考え方」で指し示した広範な関係者の話し合いによる解決は、紛争が深刻化、長期化、複雑化した今日においては、唯一の解決方法です。
今回の判決は、付言のなかで、この判決によって「有明海周辺に実際に生じている社会的な諸問題は、直ちに解決に導かれるものではあり得ない。」などと自ら言い渡した判決の無力さを嘆きながら、「国民的資産であり、人類全体の資産でもある有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、双方当事者や関係者の(中略)全体的・統一的解決のための尽力が強く期待されるところである。」と「和解協議に関する考え方」と同趣旨のことを繰り返しています。
不当判決を言い渡しながら、解決の責任を転嫁する裁判所の無責任な姿勢はさておくとして、今後の紛争解決は、裁判所内外における和解協議を粘り強く追求するなかでしかあり得ません。
わたしたちは、開門に反対する人々を含め、あらためて広範な関係者の話し合いによる紛争の解決を呼びかけます。福岡高裁が「和解協議に関する考え方」で述べたように、国民の利害調整を総合的・発展的観点から行う広い権能と職責とを有する国には、そのための特別の役割があります。
長引く不漁のなかで、多くの有明海漁民が辛酸をなめています。今季のノリ養殖においても、佐賀西南部においては深刻な色落ち被害のため、かつてない大凶作にみまわれ、廃業すら検討せざるをえない状況に追い込まれています。有明海漁業を持続するためには、有明特措法に基づく被害漁民の緊急救済が強く求められています。
そして、こうした被害を生み出さない根本的解決のため、有明海再生に向けた開門と開門調査は不可欠です。
わたしたちは、そうした漁業者の利害関係を堂々と掲げ、有明海沿岸の人々それぞれの利害関係にも配慮しながら、真摯に話し合いに臨みます。開門に反対する人々も、開門を求める漁業者の声に冷静に耳を傾けていただきたい。
福岡高裁が「和解協議に関する考え方」で述べたように、「国民的資産である有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得る」ことを目指し、いまこそ、紛争解決のための話し合いを実現しようではありませんか。
以上