5月10日、諌早湾干拓問題の話し合いの場を求める会が諫早市長へ要望書を提出
5月10日、諌早湾干拓問題の話し合いの場を求める会が諫早市長へ要望書を提出しました。
2021年5月10日
諌早市長
大久保潔重 様
諌早湾干拓事業に関わって住民の命・防災・農業・漁業を守り、地域の対立を解消し、住み良い郷土を未来に繋ぐための要望書
諫早湾干拓問題の話し合いの場を求める会
代表世話人 古賀勝 福田憲治
事務局 諌早市小船越町670-15 横林 和徳
市長へのご就任おめでとうございます。郷土発展のための活躍を祈念いたします。
始めに
福岡高等裁判所は4月28日に請求異議控訴事件について「和解協議に関する考え方」を示しました。それによると、この干拓問題は裁判だけでは解決することができず、話し合い以外に方法がないことを強調し、和解協議においては国のこれまで以上の尽力が不可欠と述べ、訴訟当事者だけでなく、漁業者・農業者・周辺住民団体・各地方自治体の利害調整の必要性にも触れています。
- 諌早湾干拓問題の話し合いの場を求める会」の活動について
地元諫早地域では、この干拓事業について意見の違う住民同士が率直に論議する場はありません。この問題は住民間に暗黙の対立を生み、本音で個々人の考えを述べ合うことがタブー視されているのが実態です。こういう現状を憂い、「諌早湾干拓問題の話し合いの場を求める会」は2016年の5月から農業者・漁業者・一般市民を交えて、開門賛成・反対に関わらず同じテーブルでの話し合いの場を求める取り組みを始めました。 その一環として賛同署名を過去に浸水被害を体験された市街地や農村地域の家庭訪問、また街頭で集めてきました。現在その数は呼びかけ人を含めて4,113人に達しています。
2.訪問で聞く住民の声
- 市内低平地。過去湛水被害に苦しまれた仲沖町、福田町、泉町を回りました。32年の水害で命からがら避難した体験、その後宅地を嵩上げした、避難所として庭先に鉄骨 2 階の小屋を作った、当時の水害後も幾度となく床下浸水にあった例など生々しい体験を聞き取りました。
- 小野、森山地区。 小豆崎町、長田町。署名とアンケートのお願いで訪問しました。私たちが「対話の場を求める賛同署名」を求めるとおよそ7 割~8 割の方が署名に応じられ、森山地区では訪問できた129 軒の中で100軒が署名されました(2019年4月12日現在)。どの地区でも「いつまでも対立が続くのはよくない」「防災も農業も漁業も良くなればそれに越したことはない」こんな気持ちからであります。 訪問した家は市内低平地と合わせて約500軒に上ります。
- 諌早市内でもこれまで浸水被害がなかった住宅地でのアンケートでは、開門調査賛成が反対に比べ、2倍以上になるなど居住地域で住民意識が異なることが明らかとなりました。
3.地域での開門反対・賛成の主な意見
反対の人の意見
- 開門すると干拓事業完成前のように背後地の農地が浸かったり、家の浸水被害が起こる。
干拓後は安心、水役・消防団で出る日も減った。干拓前は地下水位が下がった。
- 折角税金をつぎ込み完成した中央干拓地もダメになる。灌漑水はどうするのか。
- 裁判で漁業者側が主張している調整池の水位-1m~-1.2mの開門方法は知らない。
- 「漁業者は既に補償金を貰っている」開門を主張するなら補償金を返して言うべきだ。
- 漁業被害は温暖化、熊本新港や筑後川大堰、ノリの酸処理剤、乱獲の影響が大きい。全国的な問題で諌早湾・有明海だけに限ったことではない。
賛成の人の意見
- 調整池はヘドロ化し、その汚濁水が海を貧酸素にして魚貝類を死滅させている。
海底は硫化水素臭がしている。調整池のアオコは強い毒素を持つ。
- 湛水対策は佐賀平野のようにポンプの増強と堤防の強化でできること。
- 3-2開門の制限開門では農業も漁業も防災も両立できる。
- 今の中央干拓地は冬の寒害と夏の高温で優良農地と言えない。海水を入れて気温を緩和した方が農業のためになる。代替水源は水利権がなくなった公園堰の下から導水すれば解決できる。
- 諌早に天然ウナギをよみがえらせ、観光産業を盛んにするべき
4.国も「さまざまな立場の関係者がバランスよく参加するのであれば一堂に会して話し合うこともあっても良い」と対話の場を肯定。
上記の考えは2019年11月20日の農林水産委員会で当時の江藤大臣が以下のように答弁しました。
「やはり対話をすれば、そこから生まれるものももしかしたらあるのではないかと思いますと。しかし、お話しするにしても、できるだけいろいろご意見を持った方をバランスよくと言いますかきちっと集めていただいて、例えば一人三分以内で御発言くださいとかでなく、しっかりとじっくりと話し合えるような場をつくっていただければありがたいですというお話をして、戻ってまいりました」
現在の野上大臣も2021年3月17日の衆議院農林水産委員会で田村貴昭議員の質問に対して、前江藤大臣と考えは変わらないと述べつつ「様々な立場の関係者の間で一堂に会する場を設ける機運が高まることが、このような話し合いを実現する前提となるのではないか」と答弁しました。
以上を踏まえて次のことを要望いたします。
- 国に福岡高裁の「和解協議に関する考え方」に沿った和解に積極的に応じるように要請すること。
以上述べたことに関する次の資料を添えます。
- 福岡高裁の和解協議に関する考え方
- 「諌早湾干拓問題の話し合いの場を求める」ことに賛同する署名用紙
- 森山地区でのアンケート集約結果
- 訪問で聞く住民の声
- 潮受け堤防締め切り後も湛水被害が起こったと報じた1999年7月25日付け長崎新聞
- 排水ポンプの増設で湛水被害の軽減を報じた広報諫早2001年8月号 2003年9月号
- 1957年の大水害と干拓事業は関係がない、と報じた2001年3月6日付け及び調整池の効果に異論も、と報じた同年3月5日付け長崎新聞
- 農林水産委員会会議録抜粋2019年11月20日 2021年3月17日